人とロボットの共生としては,精神的支援のみを目的としたエンタテインメントとしての共生や,介護・治療など身体的支援を目的とした実用的共生が存在するが,超高齢社会を迎えた現在の日本では,身体的支援を行うロボットが真に求められており,人と医療・福祉ロボットの実用的な共生が必要である.医療用ロボットは世界中で普及が進められてきて2000台にも達する勢いであるが,ロボットに不足する能力を術者に求める状況に留まっている.
社会・生活分野で用いられるロボットに必要とされる知能として,作業計画に関する知能と作業遂行に関する知能がある.ここで,知能とは「学習,理解,推論によって対象物や環境に適応して問題に対処する知的機能」であり,「経験に基づいた知識という情報と対象物や環境から得られる情報を統合し,目的に適った処理をする能力」とする.人が対象物や環境の変化に適応した作業を柔軟,かつ巧みに対処できるのは,情報処理能力である知能のみではなく,対象物や環境に関する経験に基づく情報のデータベースを知識として有し,作業計画や作業遂行に利用しているからである.よって,対象物や環境の変化,個体差に適応しながら作業を行う知能をロボットが獲得するためには,対象物や環境の知識も同様にロボットに付与し,その知識を用いて作業計画や作業遂行に関する知能を構築することが,医療福祉ロボットの実用化に向けては必須の課題だと言える.
つまり,医療・福祉ロボットなどの人の身体的支援を目指したロボットを開発する場合,従来の産業用ロボットとは異なり,人間がもつ複雑な特性を定量化し,ロボットの設計指標にしなければならない.そのため,当研究室にて行われている手術ロボットの制御のための脳・肺・乳房・消化器・肝臓関節などを対象とした人間臓器の定量化・数式化手法を,材料力学・熱力学・流体力学など機械工学で求められる3力学(材料力学,熱力学,流体力学)の視点から捉える必要がある.