2016年6月20日月曜日

「モラベックのパラドックス」に関するSFの描写 (160619)

しばらく,気になっている研究テーマに関連する文章を引用していこうと思います.

いまや軍事システムにおいて、人間の兵士は高価な部品だ。給料、訓練、テクノロジーの粋を凝らした武装群。どんな軍隊もそんなに高価な部品を多くは抱えていられない。頭数の不足を補うために試作された、膨大な数の無人兵器が失敗作の墓場に列を成していて、成功した一握りのロボットだけが、実際の戦場で人間を殺害する栄誉を与えられている。
 皮肉なことに、人間の脳の研究が進めば進むほど、人工知能の研究はジリ貧になっていった。生身の脳の精巧さlというよりば冗長度を、コンピュータで再現することは皆がとうの昔にあきらめている。依然として戦場では、人間にしかできないことがあまりに多すぎた。

・引用元
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA) 文https://www.amazon.co.jp/%E8%99%90%E6%AE%BA%E5%99%A8%E5%AE%98-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E6%96%87%E5%BA%ABJA-%E4%BC%8A%E8%97%A4-%E8%A8%88%E5%8A%83/dp/4150309841/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1466273846&sr=8-1&keywords=%E8%99%90%E6%AE%BA%E5%99%A8%E5%AE%98

「虐殺器官」と「ハーモニー」は、話がつながっています。...


2016年5月19日木曜日

モラベックのパラドックス (引用 160519)


しばらく,気になっている研究テーマに関連する文章を引用していこうと思います.


「モラベックのパラドックス」 
モラベックのパラドックスとは人工知能 (AI) やロボット工学の研究者らが発見したパラドックスで、伝統的な前提に反して、高度な推論よりも感覚運動スキルの方が多くの計算資源を要するというものである。1980年代にハンス・モラベック、ロドニー・ブルックス、マービン・ミンスキーが明確化した。モラベックは「コンピュータに知能テストを受けさせたりチェッカーをプレイさせたりするよりも、1歳児レベルの知覚と運動のスキルを与える方が遥かに難しいか、あるいは不可能である」と記している。

・引用元
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%A9%E3%83%99%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9#CITEREFMoravec1988

Moravec, Hans (1988), Mind Children, Harvard University Press


・他のRefference
  - ロボット工学最凶の敵の話 : http://shuuji-kajita.hatenablog.jp/entry/2016/05/10/234703
    -  知能と技術的特異点 : http://kazoo04.hatenablog.com/entry/agi-ac-1




2012年6月2日土曜日

研究のアイデアと仮説思考

前回のTipsにおいて,論文や提案書のコアとなる研究のアイデアに関して述べた.今回のTipsにおいては,アイデアにおける「仮説」という考え方に関して述べていきたい.

アイデアを明確にすることの重要さ: 論文執筆等のポイント」の実験結果に述べたとおり,論文執筆においては,実験結果がアイデアを実証している必要がある.一方,当たり前のことではあるが,研究の途中,研究のアイデアは考えた実験前の時点では,実験結果は存在しない.そのため,研究を実施するためには,「実験を実施する前に結果をある程度予測しつつ,インパクトを出せる結果を創出する必要」がある.その際に使うのが「仮説」という考え方である.

「仮説」とは,「仮(かり)の説(せつ)」のことであり,(まだ実証はできていないが)「現在の時点で最も答えに近いと思われる説」である[1].研究の途中では,「研究のアイデア」はまだ「仮説」の段階であり,実験的な検証ができた時点で「実証された説」となる.つまり,研究の最後の実験的検証の前までは,「研究のアイデア=仮説」という関係がなりたっている.

つまり,いい研究を実施するということは,①インパクトのある仮説をたてられ,②それを実験的に実証する,という二段階からなる.この際に,②実験的実証に関しては,論理的な思考に準じることであり,多くの研究者が悩むのは,①如何にインパクトのある仮説をたてるか,ということである.いい仮説の立て方は,「研究のアイデアって何?」でも記載したとおり,研究者(各専門家)の経験と感に依存する部分が多いのが実際かと思う.ただ,私の経験上,いい「研究のアイデア」を出すためには,たくさんの「仮説」が必要である.たくさん考えついた「仮説」の中で一番実証すべきこと,実証できたらインパクトがあることは何か?,と問い続けることでいいアイデアが熟成されていく.逆にいれば,「それはまだ分からないから(実証されていないから)」といって,思考を止めてしまうと,いいアイデアは出てこない.いい「仮説」が思いついたら,信頼している周りの人に聞いてみて,本当に価値のある「仮説」かをしっかりと考えて頂きたい.思いついたすべての仮説を実証していく時間は現代社会では存在しないため,本当にインパクトのある仮説だけ実証していって欲しいと思う.

[1] 仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法 
http://www.amazon.co.jp/%E4%BB%AE%E8%AA%AC%E6%80%9D%E8%80%83-BCG%E6%B5%81-%E5%95%8F%E9%A1%8C%E7%99%BA%E8%A6%8B%E3%83%BB%E8%A7%A3%E6%B1%BA%E3%81%AE%E7%99%BA%E6%83%B3%E6%B3%95-%E5%86%85%E7%94%B0-%E5%92%8C%E6%88%90/dp/4492555552

2012年4月25日水曜日

「研究のアイデア」って何?


前回までのTipsにおいて,論文の記載仕方,提案書の記載の仕方に関して述べた.その時に一番のポイントとなっていたのがコアとなる「研究のアイデア」である.「研究のアイデア」とは,どのようなものであるか,と疑問に思われる読者の方も多いかと思い,今回のTipsでは,「研究のアイデア」に関して述べていきたい.「研究のアイデア」は,研究者(各専門家)の経験と感に依存する部分が多く,OJT(on the job training)で覚えてくものであると,私は思っている.そのため,言語化して記載できることには限界があることを,前もってご了承頂ければ幸いである.

私の所属している研究室は,一人1テーマ(一人の学生が1つの研究テーマを実施すること)で研究を実施しており,また,学生は機械工学分野に関わる医療福祉に関することであれば,自由に研究テーマを決めていいことになっている.このような制度の中で,初めに学生がやりがちな誤りは,「大きなシステムを開発すること」を,「研究のアイデア」にしようとしてしまうことである.

医療福祉ロボットを例とすると,新しいda Vinciや新しいHALの創造を自分の研究テーマにする,という意気込みである(皆様も自分の分野にある,最も新しいプロダクトレベルのシステムを思い浮かべてほしい).意気込みは非常に買いたいのではあるが,これは適切な「研究のアイデア」の設定の仕方とは言えない.なぜなら,da VinciやHALを作るためには,新しい技術のブレイクスルーが複数あるはずだからである.論文などでいう「研究のアイデア」とは,何か社会的なブレイクスルーを起こせる新しい「技術」である.例えば,da vinviで言えば,「ロボットアームのワイヤの取り回し方」,「マスタの構成が目→画面→手という順番になっていること」,「体内への刺入点が機構的に拘束されていること」などがあり,HALでいえば,「人間の体にフィットさせるための機構構成」,「生体信号から人間の意図を読み取る信号処理技術」などがある.

このように,論文でいう「研究のアイデア」というのは,システムレベルでどのように社会を変革できるかということではなく(これは論文では,Backgroundに記載すべき事項),技術としてどのようなシステムを構成する課題を解決できるか,ということになる.上記に記載したとおり,システムというのは様々な技術(研究のアイデア)から構成されており,組み合わせることでシステムとして完成させる(図).新しくない技術を組み合わせたのみの「合わせ技一本」的なシステム統合は,研究にはならない.システム統合的な論文を記載する場合は,統合したシステムだからこそできる新しい技術(アイデアの核)を提示する必要がある.

「研究のアイデア」=「何かの課題を解決する技術」であることは上記に述べたとおりである.最後に,いいアイデアの3つの条件を記載して,今回のTipsを終了する.

1. オリジナリティが高いこと
 → 新規性があることである.今までにない発想であればあるほど,いいアイデアといえる.

2. シンプルなアイデアであること
 → 複雑な推論を交えたアイデアの方がいいと思ってしまう方も多いと思うが,良い研究のアイデアは一言(1つのセンテンス)で表現できるくらい,シンプルなものが好ましい

3. 一般性が高いこと
 → アイデアは様々な場所で活用できる(これを一般性が高いと言う)ほうが好ましい.波及効果を生み出せるアイデアは,いいアイデアである



図 

参考書籍
[1] 素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術
http://www.amazon.co.jp/%E7%B4%A0%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB%E8%80%83%E3%81%88%E3%80%81%E7%8E%84%E4%BA%BA%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E5%AE%9F%E8%A1%8C%E3%81%99%E3%82%8B%E2%80%95%E5%95%8F%E9%A1%8C%E8%A7%A3%E6%B1%BA%E3%81%AE%E3%83%A1%E3%82%BF%E6%8A%80%E8%A1%93-%E9%87%91%E5%87%BA-%E6%AD%A6%E9%9B%84/dp/456962457X/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1334230676&sr=8-1


2012年4月12日木曜日

プロジェクト提案書を書くポイント

前回の論文の書き方に引き続き,プロジェクト提案書(申請書,企画書)の書き方のTipsに関してまとめてみたい.本項目は,「アイデアを明確にすることの重要さ: 論文執筆等のポイント」を前提にしているので,まだ読まれていない方は,そちらを読んでからTipsを読んだほうが,理解が進むとおもわれる.論文と同様に申請書の記載の一番重要なポイントは,論文と同様に,「基盤となるアイデア」が最も重要である.まず,実施したいアイデアを考えることが大前提である.

一般的に申請書の構成は, 1.背景(Introduction)および目的, 2.研究計画,から構成される.各項目に関して記述すべきことを以下に記載する.

1. Introduction(序章)
1.1 Background(背景)
対象とするアイデアにつながる社会的な背景を記載する.
例)社会的に医療費の削減が求められており,患者の身体的負担が少ない低侵襲手術が望まれている.

1.2 Motivation(目標)
対象とするアイデアにつながる研究の大枠(どの領域を対象とした研究)を記載する.
例)低侵襲手術を安全に実施するため,手術支援ロボットが必要とされているため,本研究ではその開発を目標とする.

1.3 Related work(先行研究・先行事例)
Motivationで記載した領域における先行研究を記載する.この際,後でアイデアのオリジナリティ(新規性)を主張するために必要な先行研究を選択する必要がある.また,申請書では,達成すべきアイデアの実現可能性を立証すべく,自分の業績を記入することが重要である.
例)様々な手術支援ロボットが開発されている.

1.4 Objectives(目的)
先行研究において技術的に解決されていない課題を明確にし,その中から論文で取り組むアイデアを明確にする.この部分が提案書文のコアであり,最も重要な部分である.
例)先行事例の手術支援ロボットには「***」という機能は搭載されていない.本論文においては,その機能のアルゴリズムに関する研究を実施する.さらに提案したアルゴリズムを生体組織を用いた実験によって検証する.

2 研究計画
アイデアを達成するための研究のプロセス,手法に関して記載する項目.この際には,アイデアを実証するために適切な手法を計画している必要がある.妥当な研究手法がすでに考慮されており,定義されたアイデアが十分に実現可能であると,評価者に伝わることが重要である.


3 波及効果
アイデアがもたらす掲げられた目標(motivation)以外の項目に関して記載する.学術的なもの,社会的なもの,等に分けて記載する.一般性のあるアイデアは波及効果を記載しやすい,そのため,自分が定義したアイデアの一般性をじっくりと考え,それを記載することが重要である.

よい提案書文とは,「アイデア(主張)が明確に伝わり,すでにそれを実証するための適切な研究手法が考えられている.さらに,アイデアの一般性が高く,応用範囲が広いことが明確になっている」提案書である.大学の研究室で提案書執筆の指導をしていると,上記の枠組みでは書けない,という学生(主に博士課程の学生)が散見するが,その場合は,本人が自分のアイデアを明確に理解できてない,もともとアイデアが明確ではない研究を計画している,といった問題がある.

上記に示したとおり,自ら定義したアイデアを中心に展開していくことは,論文執筆と同様である.下記のように論文と提案書の執筆には関連性があり,よい提案書が書ける人はよい論文が書けるといえると思われる.
・ 論文:方法・結果 → 提案書:研究手法
・ 論文:考察 → 提案書:波及効果

参考書籍
[1] イッシュ―からはじめよ
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AF%E3%81%98%E3%82%81%E3%82%88%E2%80%95%E7%9F%A5%E7%9A%84%E7%94%9F%E7%94%A3%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AB%E3%81%AA%E6%9C%AC%E8%B3%AA%E3%80%8D-%E5%AE%89%E5%AE%85%E5%92%8C%E4%BA%BA/dp/4862760856/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1332646158&sr=1-1

[2] 素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術http://www.amazon.co.jp/%E7%B4%A0%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB%E8%80%83%E3%81%88%E3%80%81%E7%8E%84%E4%BA%BA%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E5%AE%9F%E8%A1%8C%E3%81%99%E3%82%8B%E2%80%95%E5%95%8F%E9%A1%8C%E8%A7%A3%E6%B1%BA%E3%81%AE%E3%83%A1%E3%82%BF%E6%8A%80%E8%A1%93-%E9%87%91%E5%87%BA-%E6%AD%A6%E9%9B%84/dp/456962457X/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1334230676&sr=8-1

2012年3月25日日曜日

アイデアを明確にすることの重要さ: 論文執筆等のポイント

 私は研究者であり,論文を書くこと,研究をすること,学生を教育すること,(研究を持続的なことにするために)プロジェクト提案書を書くこと等が主要な仕事である.それぞれ別途な仕事に見えるが,最もコアな部分は一緒である.それは,「ある課題を解決する研究のコアとなるアイデアを明確にすること」である.おそらく,上記の考え方は,工学だけではなく,ビジネスも含めた様々な分野においても最も重要な考え方の一つである(参考文献[1]などを参考).本項目に関して,論文を例に以下に説明する.


 一般的に論文の校正は, 1.Introduction, 2.Method, 3.Result, 4.Discussionから構成される.各項目に関して記述すべきことを以下に記載する.
 
1. Introduction(序章)
 1.1 Background(背景)
  対象とするアイデアにつながる社会的な背景を記載する.
  例)社会的に医療費の削減が求められており,患者の身体的負担が少ない低侵襲手術が望まれている.
  
 1.2 Motivation(目標)
  対象とするアイデアにつながる研究の大枠(どの領域を対象とした研究)を記載する.
  例)低侵襲手術を安全に実施するため,手術支援ロボットが必要とされているため,本研究ではその開発を目標とする.
 
 1.3 Related work(先行研究)
 Motivationで記載した療育における先行研究を記載する.この際,後でアイデアのオリジナリティ(新規性)を主張するために必要な先行研究を選択する必要がある.
 例)様々な手術支援ロボットが開発されている.
  
 1.4 Objectives(目的)
 先行研究において技術的に解決されていない課題を明確にし,その中から論文で取り組むアイデアを明確にする.この部分が論文のコアであり,最も重要な部分である.
 例)先行研究の手術支援ロボットには「***」という機能は搭載されていない.本論文においては,その機能のアルゴリズムに関する研究を実施した.さらに提案したアルゴリズムを生体組織を用いた実験によって検証した.
  
2 Method (方法)
 実際に何を実施したか記載する項目.この際には,アイデアを実証するために適切な方法で実験をしている必要がある.また,後のResultやDisucussionで記載することに関する実験条件は記載する必要がある.
  
3 Result (結果)
 実験結果を記載する項目.淡々と実験結果およびその結果から明らかに言えることだけを記載する.実験結果がアイデアを実証している必要がる.
  
4 Discussion (考察)
 実験結果から得られた考察を書く項目.大きくContribution(貢献)とLimitation(制限:論文中で実証できていない項目を記載する)に分かれる.基本的には定義したアイデアの実証が主要なContributionとなる.また,アイデアには技術的に直接関係ないが,論文の技術を実現場に適用する際に,今後必要となる項目をLimitationに記載する.

上記をまとめると,価値が高い論文の条件は以下のようになる.
- Introductionに,アイデアが明確に定義されている
- Methodが定義されたアイデアの実証に適切である
- Resultにて,定義されたアイデアを実証する実験結果が得られている論文
- Discussionにおいてアイデアを実証できた範囲と今後何をする必要があるかが明確になっている

上記の条件を満たすと,図に示すように,Objectives(アイデア)をコアにした論文構成となる.この構成が論文執筆における基本であり,
それができていない論文は,「主張が読者に伝わらない」という事態が発生するため,研究内容がよくても評価される論文にはなりえない.よい論文とは,「アイデア(主張)が明確に伝わり,それが適切な方法で実験された結果によって実証されている.さらに,アイデアの範囲が明確になっている」論文である.大学の研究室で論文執筆の指導をしていると,上記の枠組みでは書けない,という学生が散見するが,その場合は,本人が自分のアイデアを明確に理解できてない,もともとアイデアが明確ではない研究を実施している,といった問題がある.

まだ研究歴の浅い若輩者が記載した文章ではあるが,皆様のご参考になれば幸いである.次回以降のTipsにおいて,研究をすること,学生の教育に関して,プロジェクト提案書を書くこと,において,上記の考え方をどのように当てはめていくかを記載していく予定である.




 
図:論文の基本的な構造





参考書籍
[1] イッシュ―からはじめよ
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AF%E3%81%98%E3%82%81%E3%82%88%E2%80%95%E7%9F%A5%E7%9A%84%E7%94%9F%E7%94%A3%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AB%E3%81%AA%E6%9C%AC%E8%B3%AA%E3%80%8D-%E5%AE%89%E5%AE%85%E5%92%8C%E4%BA%BA/dp/4862760856/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1332646158&sr=1-1
[2] これから論文を書く若者のために
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%8B%E3%82%89%E8%AB%96%E6%96%87%E3%82%92%E6%9B%B8%E3%81%8F%E8%8B%A5%E8%80%85%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AB-%E5%A4%A7%E6%94%B9%E8%A8%82%E5%A2%97%E8%A3%9C%E7%89%88-%E9%85%92%E4%BA%95-%E8%81%A1%E6%A8%B9/dp/4320005716/ref=sr_1_fkmr0_1?ie=UTF8&qid=1332646084&sr=8-1-fkmr0

2012年3月20日火曜日

臓器物理モデルベースド制御

外科医療における処置は,特に病変部や生命維持に係わる部位などの重要な組織周辺において精確さが要求されるが,これらの対象となる組織の多くは非常に軟らかいため外力に対して変形を起こしやすく,手術難度が高い.たとえば,脳・肝臓・乳房といった軟組織によって構成される臓器――そのいずれにおいても悪性腫瘍の症例が多い,生命機能において重要な役割を担っている,瘢痕による精神的ダメージの回避が重要視される,などの特徴を有する――における治療では,穿刺や切除の際に組織が変形を生じる.ここで,従来の人の手による術式においては,術者が精確な施術を行うためには術中に得られる触覚・視覚の情報を利用し,医学的知識や経験則に基づいて臓器の解剖学的・力学的状態を推定・予測することで,患者人体――バラエティに富み未知の特性を持つ対象――に対して巧みな作業を行う必要があり,熟練を要することから手術難度が高く,熟練医師の不足が深刻な問題となってきた.この問題を解決するため,術者を支援する手術支援ロボットシステムの研究開発が行われている.
 前述のように軟組織は外力に対し容易に変形することから,手術支援ロボットシステムが組織への高精度なマニピュレーションを達成するためには,組織変形を補償する方法が必要である.この組織変形補償の要求に対し,臓器物理モデルベースド制御法と呼称される手術支援ロボットの制御方法がこれまでに提案されてきた.この制御方法では,手術支援ロボットが臓器に及ぼす力学的作用を手術前および手術中に臓器物理モデルを用いた力学的な数値シミュレーションを行うことによって評価し,その評価結果によって手術支援ロボットの制御パラメータを適切に設定する.この手法によって,臓器変形など,臓器内の力学的状態に応じて手術支援ロボットシステムの制御を調整することが可能になることから,手術支援ロボットシステムによる,より精確でより安全な処置が実現されることが期待されている.
  我々は,手術支援ロボットの目標組織への高精度な位置決めを可能にするために,臓器モデルの開発および臓器物理モデルを用いた力学的な数値シミュレーション情報をロボットの制御に反映する「臓器モデルベースド制御法」の提案を行ってきた.臓器モデルベースド制御法の概念図を下記 に示す.臓器モデルベースド制御法では,事前知識のデータベースと術前の撮像画像を利用した術前臓器物理モデルによって手術計画を行い,術中においては術中撮像画像などを利用した術中臓器物理モデルによってロボットの制御を行うものである.


*本文章は,「星雄陽 博士論文 接触力計測と超音波画像を用いた臓器物理モデルの弾性率値分布同定に関する研究」を一部抜粋し,再編集したものである.