2012年3月20日火曜日

医療福祉ロボット開発概論 緒言


超高齢社会への突入に伴い,先進国においては高齢者・障害者・有病者を精神的,身体的に支援するテクノロジーへ大きな期待が寄せられている.近年,手術支援ロボットda Vinci やリハビリ支援ロボットHAL などの医療福祉ロボット(先端医療機器・福祉機器)が実用化され始め,医療や福祉の現場においてロボットが果たすべき役割は非常に大きくなっている.既に世の中に普及した産業用ロボットは,ある整備された環境において,特性が既知で高い剛性を持つ対象に対する作業に特化することで成功を収めた.それと比較し,人間は非常に柔らかく,形状が変化しやすい.また,人間には個体差が存在することが多く,一般的に対象の力学的特性は未知である.このことから,医療福祉支援ロボットの開発においては,「人間という対象を工学的に理解する」ことが非常に重要である.また,真に医療福祉分野で役立つものを作るためには,機械工学(シーズ)ベースのものだけではなく,医療従事者や福祉従事者などの専門家との徹底した議論を通して把握できる現場のニーズをもとにした技術開発が必要不可欠である.その際に工学者に求められているのは,医療関係者が現在要求する機器のみを開発するのみではなく,「一流の工学」に基づいた機器開発である.

 現在、先進国においてロボットテクノロジーに大きな期待が寄せられている。先の東日本大震災に際しては海外からのロボットが飛び込んでくる中、日本のロボットの活躍はあまり報道されず、一般市民からロボット技術への落胆の声が聞かれた。しかしながら、日本のロボット技術が実用的なロボットを生み出していないということでは決してない。海外製のロボットも含め、多くのロボットは限定された環境で既知の対象に対して基本機能の実現に精一杯であり、「人がロボットに合わせる」必要があった。しかしながら、ロボットが本当に人の役に立つためには「ロボットが人に合わせる」必要がある。そのためには様々な計測技術・制御技術を組み合わせる事が重要な鍵を握る。

 「医療福祉支援ロボット Tips」においてはその例として,早稲田大学 藤江正克研究室で開発中の医療福祉ロボットを取り上げ、上記の方針に根差した研究開発のアプローチを紹介する.また,医療福祉ロボットの実用化・産業化に向けた医工連携のあり方についても述べる.

*本文章は,専門家間の科学技術相互理解-医工連携-,日本機械学会誌,114(1107)94-952011」を一部抜粋し,再編集したものである.

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